LEAD–LAG × HISTORICAL SIMILARITY

先行する地域をそろえると、
「似た過去」は役に立つか

形の似た過去を探す前に、どの地域が先に動いていたかをそろえる。国債配分を題材に、この工夫の核心と検証を8つの問いで読む。

市川佳彦氏の投稿(2026年10月29日)と、藤田崇文・町田知弘・小野菜摘・中川慧の原論文に基づく解説。

核心を、どんな問いに分解できるか?

説明用の問いの地図。矢印は読解の順序・比較の分岐を示し、経済的な因果の証明ではない。各ボックスから本文へ移動できる。

QUESTION 01

「似た過去」とは、形さえ似ていればよいのか?

この研究の核心は、似た波形を探す精度だけでなく、そもそも「どの過去を比較対象にしてよいか」を変えた点にある。

形状だけで探す

今と変化の形が近い過去を探す。時間の伸縮は許すが、どの地域が先に動いた局面かは条件にしない。

先行地域をそろえてから探す

今が米国先行なら、過去の米国先行局面に候補を限定。その中で相対的な変化形状が近い局面を選ぶ。

直感的には、「見た目の似た経路」でも、地域間の時間関係が違えば、その後の投資成果も違うかもしれない。これは研究の仮説であり、同じ先行地域なら必ず同じ結果になるという前提ではない。

上の対比は説明用の図式。出典:2.3節 p.79

QUESTION 02

先行する地域を、どう判定して候補を絞るのか?

先行関係の判定と、現在に似た過去の検索は、別々の二段階で行う。

① 地域どうしを比較

米・欧・豪の同じ指標を標準化。片方の過去窓をずらし、DTW距離が最も小さくなるラグを探す。

↓
② 現在と過去を分類

米国先行/欧州先行/豪州先行/Non-Leadの4分類。同じ分類の過去だけ残す。

↓
③ 相対系列で近い過去を選ぶ

米国−欧州、米国−豪州の2系列を使い、現在に近い過去を原則5局面選ぶ。

DTWとは:二つの系列を、同じ月どうしだけでなく、時点の対応をずらしながら比べる距離。変化が少し早い・遅い場合も形の類似性を捉える。ただし、DTWで形を比べるだけでは「先行地域の一致」は保証されない。

比較・設定と出典を読む
  • ローリング標準化:過去120カ月。分析窓:12カ月。最大ラグ:6カ月。
  • 先行判定:地域Bの終点をtに固定し、地域Aの終点をt−Lに移す。最適ラグと、ラグなしに対する距離減少で判定する。
  • 両段階とも、分析窓内で差分化し、各次元を最小・最大で正規化してからDTWを計算する。
  • Non-Leadは同期だけでなく、先行地域を一つに特定できない場合も含む。
  • 候補はs+3≤tを満たす過去時点だけ。近接時点の重複選択を抑え、候補不足時は近傍数を調整する。
  • 先行判定の具体的閾値、重複抑制の間隔等の数値は本文・表1では明示されていない。ここで補ってはいない。

4.2–4.3節 p.80 / 4.4–4.5節 p.81 / 表1 p.82

QUESTION 03

似た過去の「その後」を、どう配分に変えるのか?

予測するのは国債リターンそのものではなく、「3カ月後までの円ベース累積リターンが最も高い地域」の確率。配分はその順位から決める。

各過去局面の勝者を調べる

その後3カ月で、米・欧・豪のどの国債が最も高い円ベースリターンだったか。

↓
近い局面ほど大きく数える

距離の逆数で重み付けして、地域別の勝者頻度を計算する。

↓
順位を固定比率へ

1位60%・2位30%・3位10%。直近3時点の目標配分を平均して、翌月に適用する。

wⱼ = (dⱼ + ε)⁻¹ / Σₖ(dₖ + ε)⁻¹  WRᵣ = Σⱼ wⱼ × 1{地域rが勝者}
bₜ = (vₜ + vₜ₋₁ + vₜ₋₂) / 3

「勝つ確率が60%だから資金を60%」ではない。勝者頻度は順位に使い、配分比率は固定する。また、3カ月先を予測するが、配分更新は毎月。3カ月間ずっと同じ配分を固定する運用ではない。

比較・設定と出典を読む
  • 対象:米国・欧州(ドイツ)・豪州の為替ヘッジなし国債。円ベースなので債券収益と対円為替変動の両方を含む。
  • 評価:2016年1月〜2025年12月。類似局面候補:2000年1月以降。
  • 7指標は一つずつ別の戦略に入力する。7指標を一つのモデルへ統合した結果ではない。
  • 同じ勝者頻度なら、選択した過去局面の重み付き平均リターンで順位を決める。
  • ロングのみ、資金合計100%、レバレッジなし。月末に決めた実装配分を翌月末まで保有する。

式1–4 p.80 / 式15–19 p.81 / 式20–21・5節 p.82

QUESTION 04

先行地域で候補を絞ること自体に、価値はあったのか?

基準設定では、候補を絞らないkNNより、7指標すべてでシャープレシオが高かった。これが投稿の中心結果。

比較:「同じ先行地域に限定してkNN」対「全レジームからkNN」。順位別の配分と平均化を共通にして、候補の限定を加える価値を見る。

シャープレシオ差:提案手法 − 比較手法0BLI 景気先行+0.033CSI 消費者心理+0.087RS 小売売上+0.023IP 鉱工業生産+0.060UR 失業率+0.043CPI 消費者物価+0.04410Y 国債利回り+0.055

すべての棒がゼロの右側にある。形だけで選ぶ場合に対し、先行地域をそろえる追加が、基準設定の全指標でプラスだった。差は+0.023〜+0.087、7指標の単純平均は+0.049。

原論文掲載結果の再描画。2016–2025年、W=12、K=5、DTW。表4・仮説2 p.83

比較・設定と出典を読む

差=Lead/Lag-KNN − Unconditional-KNN。個々の指標の戦略シャープレシオ差であり、平均差は7戦略を統合したポートフォリオの改善幅ではない。候補制限は利用可能な候補数も変えるため、経済的な伝播機序だけを識別した実験ではない。

QUESTION 05

先行地域が同じなら、さらに「近い過去」を選ぶ必要はあるのか?

その上乗せは一様ではない。同一レジームの全候補を使う場合を上回ったのは、7指標中4指標だった。

比較:「同じ先行地域の中でkNN」対「同じ先行地域の候補を選別せずに使用」。候補分類と配分規則をそろえ、近傍選択を加える価値を見る。

シャープレシオ差:提案手法 − 比較手法0BLI 景気先行-0.010CSI 消費者心理+0.123RS 小売売上-0.002IP 鉱工業生産-0.040UR 失業率+0.039CPI 消費者物価+0.05110Y 国債利回り+0.029

消費者心理・失業率・物価・10年利回りは右側だが、景気先行・小売・鉱工業生産は左側。「分類してから近い5局面」という二段階全体の優位を、二段階それぞれの一律な必要性と混同できない。

原論文掲載結果の再描画。表4・仮説3 p.83

比較・設定と出典を読む

差=Lead/Lag-KNN − Lead/Lag-Only。近傍の選択だけでなく使用する局面集合と集計方法が異なる。比較から分かるのは実装された近傍選択・集計の追加効果であり、その良否が候補数・類似性のどちらに由来するかまでは分離していない。

QUESTION 06

結局、普通の配分より運用成績は良くなったのか?

逆ボラティリティ配分のシャープレシオ0.491に対し、提案手法は景気先行指標を除く6指標で上回った。ただし、これは戦略全体の比較。

手法別シャープレシオ(原論文 表A.3)
入力指標提案手法同分類の全候補無条件kNN逆ボラ配分
BLI 景気先行0.4750.4850.4420.491
CSI 消費者心理0.5350.4120.4480.491
RS 小売売上0.5300.5320.5070.491
IP 鉱工業生産0.5010.5410.4410.491
UR 失業率0.4980.4590.4550.491
CPI 消費者物価0.5810.5300.5370.491
10Y 国債利回り0.5520.5230.4970.491

予測情報も配分規則も変わるため、この比較の差を「先行地域で絞った効果」だけには帰せない。その問いにはQ4の比較を使う。

損失幅まで一律に改善したわけでもない。最大ドローダウンは基準の−10.68%に対して、失業率入力では−13.04%、物価入力では−11.83%だった。

比較・設定と出典を読む

本稿のRisk Parityは、過去120カ月の円ベース月次リターンのボラティリティの逆数に比例する配分。共分散を考慮してリスク寄与を完全に均等化する一般的な手法と同一視しない。シャープレシオは費用控除後の実績ではなく、原論文の運用評価値。表3 p.83 / 表A.3 p.86

QUESTION 07

「7指標すべて改善」は、どこまで一般化できるのか?

期間や近傍数を変えても平均改善は残るが、比較する時間幅を変えると改善は小さくなる。「どの過去を比べるか」だけでなく「何カ月の形を比べるか」が重要だった。

ここでの差はすべて、提案手法 − 無条件kNN。7指標の平均差と、改善した指標数は別の量である。

7指標の平均シャープレシオ差:提案手法 − 比較手法0基準 W=12 / K=5+0.0492016–2020+0.0492021–2025+0.061K=3+0.023K=10+0.033W=6-0.005W=18+0.009ユークリッド距離-0.018
候補を絞る効果は、設定を変えるとどうなるか(表5)
変更した条件平均ΔSR差が正の指標数
基準 W=12 / K=5+0.0497/7
2016–2020+0.0495/7
2021–2025+0.0617/7
K=3+0.0236/7
K=10+0.0335/7
W=6-0.0054/7
W=18+0.0093/7
ユークリッド距離-0.0183/7

12カ月窓の棒に対し、6カ月窓はわずかに負、18カ月窓は小さな正に縮む。18カ月では平均が正でも改善指標は3/7にとどまり、平均改善と幅広い改善が同じではないことが分かる。

ユークリッド距離では平均差が負になった。ただしこれは、距離尺度を変えたときの候補限定の優位の比較。DTWのどの部分が改善を生むかを単独で識別したものではない。

比較・設定と出典を読む
  • 基準はW=12、K=5、DTW。その他の設定の比較値は表5・表A.2。
  • 2016–2020と2021–2025はサブ期間分析であり、論文が訓練・未使用テストとして割り当てた比較ではない。
  • 2016–2020の小売の表示差は0.000。「正」は掲載値が正の指標数として数える。
  • 論文はこの改善差について信頼区間・統計的有意性を報告していない。7指標は同じ地域・期間を使うため、7つの独立した再現実験とは扱わない。

6.2節・表5 p.84 / 表A.2 p.86

QUESTION 08

この研究から持ち帰るべき核心は何か?

「似ている」を探す前に、その比較が意味を持つ構造をそろえる。この研究は、その条件付けが国債配分の成績改善につながった一例を示した。

この結果が示すこと

基準設定では、先行地域をそろえてから過去を探す方が、形だけで探すより良かった。類似性の定義に、地域間の時間関係を加える価値があった。

この結果だけでは分からないこと

経済的な因果の伝播、各時点の公表値だけを使った再現、費用控除後の優位、他資産・他地域への転用は確定しない。

なぜ、この境界が重要なのか?

Q&A

先行する地域の国債を買う戦略なのか?

違う。先行地域は「過去の候補を選ぶ条件」。その過去局面後に最も良かった国債地域を集計して、現在の配分順位を決める。先行地域と投資先の1位は一致する必要がない。

7指標を全部使えば、もっと良いのか?

この論文は7指標を個別に入力している。統合した場合の追加価値や最適な組み合わせは検証していない。

一番重要な比較はどれか?

核心の「先行地域で候補を絞る意味」にはQ4。同分類内の近傍選択にはQ5、完成した配分戦略の水準にはQ6。それぞれ答える問いが違う。

研究結果からの解釈と適用範囲の整理。原論文の限界:7節 p.84 / 結論 p.85